今までのPDFデータへは、こちらから |
---|
2024年08月号 |
2024年08月号の音声読み上げができます。 |
『南海トラフ巨大地震』その7(真夏の巨大地震) 今回も「真夏の地震災害」について考えます。 南海トラフ地震は、1096年永長地震、1854年安政東海地震、南海地震、1944年昭和東南海地震、1946年南海地震は12月に起きました。 1707年宝永地震は10月、684年白鳳地震は11月、1605年慶長地震と1099年康和地震は2月といった比較的に気温が低い季節発生しています。 ところが、887年仁和地震は8月、1361年康安地震は7月、1498年明応地震は9月に発生しています。 ここから考えても、気温によって地震が発生する関連性はなく、一年を通して地震発生の確率は同じだと考えます。 しかし!近年の猛暑から考えると「真夏の大地震」は、地震後の生活に大きな困難を伴うことが過去の教訓からも読み取れます。 では、南海トラフ巨大地震が真夏に起きたならどうなるのかを想定してみましょう。 近年から考えると「猛暑の対応」と「出水期と重なる風水害」の同時発生という最悪の想定です。 長時間停電をすれば、エアコンが使えないことにより、熱中症患者が多発します。 更には、対応に当たるべき救急隊・消防隊、自衛隊とボランティア等が猛暑の中での活動に大きな支障をきたすばかりではなく、救助活動する人達も熱中症対応を強く迫られることになり、救助活動そのものができなくなると考えられます。 これは猛暑による二次・三次被害です。 長時間停電は、冷蔵庫も停止し中の食材が腐敗する懸念も出てきます。 更には、地震による直接死の方々や間接死の方々のご遺体の保存問題が発生し、腐敗臭が発生するばかりではなく、下水道閉塞による汚水処理問題やゴミ等の公衆衛生問題も発生し、それらから発生する感染症の問題が多くの人を巻き込むことになりかねません。 それらの衛生状態を改善緩和できる上水道も長期間断水になる地域も多くあり、暑い夏に不可欠な給水やトイレ、お風呂・シャワー等の問題も多く発生し感染症が加速することになりかねません。 また南海トラフ地震では、避難者が950万人以上と想定される30都府県を越える被災地域では、膨大な関連死が発生することが懸念されます。 専門家の想定では、冬の時期の巨大地震発生の方が直接死の死者数想定は多いのですが、真夏の猛暑の時期を考慮に入れるとすれば、あきらかに真夏の災害は「間接死」の増加が考えられるのです。 更に懸念材料は、発電所が広域で停止し長期間停電した場合、現在稼働中の「火力発電所」が一旦停止すると起動(始動)には多くの電力を必要とするので被災していない発電所から電気を分けてもらわなければ始動できず長期間停電が続くことになります。 長時間停電は私たちの生活にも直接響いてきます。 長期間停電によるマンション設備の『給水ポンプの停止』です。 それにより各家庭への給水は完全に停止します。 その間、各家庭への給配水はどうすれば良いのか?今から強く考えておく必要があります。 現代社会は、電気や水がなければ病院も機能せず、風呂・シャワーや水洗トイレが使えなくなり、その先にある下水処理場も稼働できず衛生状態が悪くなる。 工業用水も停止すれば発電所だけではなく、ガス生産や製油も困難な状態になり、それにより燃料が不足、農業用水も止まり作物の生育に影響が出て、生きる糧である「食」そのものに大きな問題が懸念されることになります。 停電だけではなく『出水期と重なる風水害』の同時発生です。 梅雨・雷雨・台風・ゲリラ豪雨・降雹といった風水害が続発しています。 地震発生より豪雨が先の場合は、水を多く含んだ地盤は地震の揺れで崩れやすく、逆に地震の揺れで緩んだ地盤は風水害で崩れやすくなります。 2004年新潟県中越地震や2018年北海道胆振東部地震では直前の豪雨や台風によって、土砂災害が多発したと考えられています。 大地震が起きると、気象庁は、強い揺れを受けた地域の地盤が緩むことを考慮して、大雨警報・注意報や土砂災害警戒情報の発表基準を引き下げています。 もし南海トラフ巨大地震が夏に発生すれば、広域に被災し、余震・後発地震や誘発地震も多発し風水害と重なる可能性も高くなります。 それらの甚大な被害によって、堤防などの治水施設の復旧が遅れれば、風水害との複合災害の発生可能性も極めて高くなります。 逆に言えば、風水害との複合災害を防ぐ為には治水施設の仮復旧を優先する等の災害対応戦略を考えておく必要があります。 夏特有の「猛暑対応」問題で応急対応の遅れによる関連死や、衛生環境の悪化による感染症の拡大、復旧の遅れによる風水害との複合災害などの課題が想定されます。 「猛暑の対応」と「出水期と重なる風水害」の同時発生!皆さん、自分事として一度考えてみませんか?決して他人事ではありません。 (今回は福和伸夫・名古屋大学名誉教授のお話を参考に作成しました) |